広島の地から
世界トップレベルを目指して
オリジナルな研究の発信をしてゆきたい
教授 粟井 和夫
医学博士近年、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の進歩が注目を集めています。私たちの放射線診断領域でも、昨年の北米放射線学会でIBMが開発したワトソンというAIのデモが行われ大きな話題となりました。このような状況下で、放射線診断医の中には、将来、放射線診断医が職業として生き残れるか心配している人もいます。
先日、「AIが放射線診断をどのように変えるか」というテーマで、山口大学の知能情報工学分野の木戸尚治教授と対談する機会がありました。木戸先生は、「AIは部分的な能力で人間を越えるだろうが、トータルな意味で人間の能力を越えるということにはならないだろう」と話されておられました。
放射線診断業務を考えてみると、CTやMRIを読影して単に病変を見つけるという単純作業については、早晩、AIの方が人間よりも正確に早く行うことができるようになるでしょう。しかしながら、本来、放射線診断医の仕事は、個々の患者さんの背景・生化学・生理学的データ等を考慮した上で画像所見を分析して主治医と最終診断や治療方針についてディスカッションするというものであり、これに関してはまだまだAIには難しいようです。前述したワトソンも、人間がいろいろな情報をお膳立てしてコンピュータに与えれば素晴らしい性能を発揮するようですが、予期せぬことがしばしば起こり患者さんの医学的あるいは社会的背景も様々な実臨床では必ずしも高い性能を発揮するわけではないようです。
今後の放射線診断医は、CTで肺転移を見つけるといった単調で時間のかかるルーチンワークはAIにまかせて、この患者さんの病態の本質は何かを考えたり、医学面および社会面を考慮してこの患者さんの治療はどのようにすべきかなどを主治医と議論したりといった、よりクリエイティブな仕事を中心にするようになると思います。今後、AIを上手に使いこなせる放射線診断医のみが生き残ってゆくことになるでしょう。
私の研究室は、広島大学医学部の卒業生のみではなく、いろいろな医学部の出身者からなっており、さらに工学部出身で画像工学の専門家もいます。大学院生の研究テーマも、個々の希望をなるべく尊重し、研究室の中で多様な研究が展開されるように心がけています。研究グループもあまり厳密に分けず、場合によっては、ある研究グループのメンバーが別のグループの研究にも参加するというような、緩やかな結合の中で研究を進めています。
また、研究室のメンバーの半数近くは女性です。女性医師の中には家庭の事情等でフルタイムの勤務が難しいかたもいらっしゃいますが、そのような方でも週数回あるいは一日数時間の勤務をしていただき、放射線診断医としての臨床のスキルが衰えないようにしていただいています。
私たちの研究室では、このように、多様な人材が、それぞれにあったスタイルで診療や研究に活躍できるように配慮しています。
私は2010年に本研究室の教授に着任しました。この時、研究室のスタッフがかなり入れ替わり、ほとんどの研究がゼロから始まるという状況となりました。当時は、すべての大学院生の指導を私が直接行っており大変でしたが、このことは私の研究に対する姿勢や私がそれまでに学んできた方法論を若手に伝える良い機会となりました。
それから8年たち、今では私が指導した大学院生達が講師や助教となり、さらに下の若手を指導してくれるようになりました。私自身の研究の関心は、CTにおける被ばく低減、造影剤の体内動態、診断用放射線の生物学的影響、人工知能の画像診断への応用といった放射線診断領域の基礎的なものが主ですが、当科の中堅、若手のメンバーが、それを胸部、心血管、腹部、小児などのサブスペシャリティーの領域に応用し発展させてくれています。
最近は英語論文も毎年コンスタントに20以上アクセプトされるようになり、日本学術振興会の科学研究費も、現在、11の課題が採択されています。今年(2017年)の年末に開催される北米放射線学会に採択された当研究室に関連した演題数は26題で、これは国内で最多でした。今年、私が何よりも嬉しかったことは、採択演題のうち、オリジナルの研究発表(すなわち教育ポスターではない発表)が初めて7割近くを占めたことです。ようやく、当研究室でもオリジナルの研究が次々に発信できるようになり、世界で戦える体制が整ったなと感じています。今後も、スタッフが一丸となって、広島の地から世界トップレベルを目指してオリジナルな研究の発信をしてゆきたいと考えています。